磁界の強弱が磁石の運動によってどのように変化するか、多極磁石の運動を用いて説明します。図5で示すように、磁石では、N極の中心からS極の中心に向かう磁束線が出ています。磁界強度を磁気ベクトルで表すと、磁石に対向する面Aにおいて、図5で示すN極、S極のそれぞれの中心(a,e,i)が最も小さく、N極とS極の分かれ目(c,g)では最も大きく現れます。それぞれの中間(b,d,f,h)は、c,g位置の半分の大きさとなります。
この磁界強度の変化により、強磁性薄膜金属の抵抗値が変化します。磁界強度が飽和感度領域以下の場合、抵抗値変化の様子は図7のようになります。図中Hが信号磁界で、この入力に対する抵抗値変化がGとなります。信号磁界1周期に対して抵抗値変化は、2周期分の出力となります。
図7では、信号磁界が飽和感度領域以下の場合を図解しましたが、磁界強度が飽和感度領域に達した場合の抵抗値変化を図8に示します。
磁界強度が飽和感度領域に達したAの領域では、抵抗値変化が極めて小さくなる為、抵抗値変化Gは、図7に示した波形とは異なってきます。 抵抗値変化をハーフブリッジ回路で電圧変化として出力した時Voutは次式で与えられます。
図11で示したすだれタイプ基本パターンの抵抗値変化と、図7で図解した飽和感度領域以下の信号磁界が印加された場合の出力電圧を図9に示します。出力は、正弦波状の波形となります。
図8で図解した飽和感度領域に達する信号磁界が印加された場合の出力を図10に示します。
飽和感度領域に達する磁界になると電圧変化の波形も歪みを持つことになります。この歪み成分は高調波として表現することができます。
図11に、【すだれタイプ】の基本パターンを示します。R1が最大の時、R2が最小となる位置は、図5で説明した着磁ピッチλで示すと、ちょうどλ/2離した位置になります。この位置に同一方向に延伸した強磁性薄膜金属のエレメントを配置し、直列に結線し、ハーフブリッジ回路を形成する事により、効率良く信号を取り出す事ができます。
この【すだれタイプ】AMRセンサを、図12のように検出対象物である多極磁石ロータやリニア多極磁石の着磁面に対向するように設置します。
設置に際し、磁石とセンサとの距離(ギャップ)については、注意が必要です。図13は、ギャップと出力電圧の関係を示しています。 図9のような歪みの少ない波形を必要とする場合、磁石とAMRセンサのギャップをある一定の範囲内にしなければなりません。図13Aのギャップ領域に配置した場合には、磁界強度が飽和感度領域に入る為、図10のように波形が歪みます。また、図13Bのギャップ領域においては、僅かなギャップ変化で出力電圧が大きく変化します。磁界強度は、距離の2乗で弱まる為、ギャップ変動が出力に大きく影響する事になります。
従って、すだれタイプ基本パターンでは、効果的に使用できるのは、Bのギャップ領域の限られた範囲となります。当社のAMRセンサは、図13で示したAのギャップ領域でもBのギャップ領域と同様に、波形歪みが少なくなるような工夫が基本パターンに追加されています。
三角波と正弦波を比べた時、三角波の出力が正弦波の出力より小さい箇所にパターンを加え感度補強すれば、正弦波の波形に近づきます。3次高調波はλ/6、5次高調波はλ/10の位置にパターンを配置すると歪みが補正され、広いギャップで精度の良い出力波形を得ることができます。3次高調波対策パターンを図14に示します。
このほか差動出力パターンや、曲率誤差を抑えるパターン等、様々な工夫を施す事が可能です。
運動を制御する場合には、運動方向を知る必要があります。1つの信号では困難ですが、2つの信号を用いれば、可能となります。基本出力と1/4周期(90°)の位相差を持つ2つ目の出力と組み合わせることも有効な手段です。この出力を得る為には、図11のすだれ基本パターンの構成を2組、λ/4離して構成すれば、運動制御に必要な1/4周期の位相差を持った2出力が得られることになります。この位相出力タイプを図15に示します。2組のパターンは同一面に同時に形成されるため、位置誤差及び特性誤差を非常に小さくできる利点があります。
このようにエレメントを同一面上に自在に構成出来る点が、AMRセンサの最大の特長となります。この特長を、さらに生かせば、アブソリュート検出も可能となります。その例を図16で図解します。検出対象物である多極磁石に、2つの異なる着磁ピッチaλとbλを設けます。この異なる磁極を1つのAMRセンサで検出し、出力波形を処理することでアブソリュート検出が可能となります。着磁ピッチaλとbλ間では着磁しない部分(無着磁部)が必要となります。この間隔はλが0.5mm以下では0.5mm、λが0.5mmより大きい場合は、λと等しい距離が必要になります。